「私の過去!そして今!」という記事から2回にわたって、私が対人恐怖
症で悩んでいたころの話をしました。
当時の私は、自分が人間関係で苦しんでいることを、誰にも話しませんで
した。
これを話すことは、「自分は普通の人間じゃない。致命的な欠陥のある人間
だ。」ということを人に明かすことになる、と思っていたからです。
そうなると、私のことを誰も相手にしてくれなくなる、と思い込んでいま
した。
大学2年生になったころから3年生になるくらいまでの間に、私は対人恐
怖症ではなくなりました。
もちろん対人緊張はしましたが、人を避けなくなり、友達と付き合うこと
ができるようになりました。
友達もずいぶん増えました。
しかし、自分が高校時代から対人恐怖症で苦しんできたことは、やはり誰
にも言えませんでした。
それは私にとって、あまりにも“暗い過去”の話でしたし、自分の人生の
汚点だと思っていました。
この汚点を消すことはできないし、「この秘密は一生抱えて生きていくしか
ない」と思っていました。
「人間は誰しも、他人に言えないような過去があるものさ。」と自分に言い
聞かせていました。
大学を卒業した私は、リクルートに入社しました。
会社の仕事にヤリガイを感じ、仕事を通じていろいろなチャレンジを楽し
みました。
入社2年目になった時に、私は、新入社員の教育責任者になりました。
私のいた課には、4人の新入社員が入ってきました。
私自身がまだまだ未熟なところも多い状態で、新入社員教育はなかなか大
変でした。
しかし、とてもヤリガイのある仕事でもありました。
どうすれば、4人の新入社員たちが、高いモチベーションを維持しながら
仕事を覚えてくれるのか?
私は日夜、そのことを考えていました。
ところが、2ヵ月くらい経ったころに、4人のうちの1人が、すっかり元
気をなくしてしまったのです。
ある日、その元気がなくなった彼から誘われ、居酒屋に行きました。
話を聞いてみると、うまくやっていく自信がなくなったとのことでした。
「特に、女性の先輩社員とうまくコミュニケーションをとる自信がなくな
った」とのことでした。
当時、私のいた課は7割が女性社員でした。
彼にとっては、この先うまくやっていけるとは思えなかったようです。
「野口さんのように、誰とでもうまくコミュニケーションを取ることは、
僕にはできません。元々、人間関係作りは得意ではないんです。」と彼が
言いました。
内心、私は驚きました。
彼には、私が誰とでもうまくコミュニケーションを取っているように見え
ている、ということが驚きでした。
私としては、あいかわらず対人緊張をする場面も多かったし、苦手な先輩
社員も何人かいたので、彼の言葉は意外でした。
私は、しばらく彼の話を聞いた後で、「俺の話もしていい?」と聞きました。
「ぜひ聞かせてください。」という彼の言葉に促されて、私にも苦手な先輩
がいることや、私が人と接していて緊張するタイプである事を話しました。
彼は、とても興味を持ってきました。
「そうなんですか。野口さん、仕事が楽しそうだし、コミュニケーション
も楽勝で楽しんでるのかと思ってましたよ。」
「たしかに、仕事は楽しいよ。ストレスもあるけど、いろいろチャレンジ
できるし、自分が成長できるからね。」
「そうか、ストレスも込みで楽しめてるんですね。でも、僕なんか、やっ
ていけますかね?学生時代、クラブとかもやってないし、どうも女性とう
まくコミュニケーションを取る自信がないんです。」
次の瞬間、私は自分でも意外な言葉を発していました。
「対人恐怖症って知ってる?」
「えっ?聞いたことありますけど。僕、そこまで病的じゃないですよ。」
「いやいや、俺がその対人恐怖症だったのよ。」
これは、自分でも意外な言葉でした。
自分が対人恐怖症だったことは、一生の秘密として抱えていくものだと思
っていたからです。
しかし、不思議なほど、私には抵抗がありませんでした。
私は高校時代から大学時代にかけての話をしました。
彼は、とても興味深そうに話を聞いてくれました。
ひととおり話し終わった後、彼が言いました。
「いやー、話を聞けてほんとによかったです。なんか、自分もやっていけ
る自信が出てきました。対人恐怖症だった野口さんが、今あれだけ仕事を
楽しんでいるんだから、僕にもできますよね。」
彼の顔が笑顔になっていました。
私は、対人恐怖症の話をしたら人が離れていく、と信じていたこともあっ
たのですが、その時は抵抗なく話をできました。
それはおそらく、自分が目の前の仕事に全力投球できていて、そのことを
幸せに感じていたからだと思います。
そして、「過去の対人恐怖症時代の経験が、今の幸せにつながっている」と
いう確信を持ち始めていたからだと思います。
私の中で「対人恐怖症」は、“過去の汚点”ではなく、“過去の私を最も鍛
えてくれたもの”であり、“幸せな人生の基礎を作ってくれたもの”に変
わっていたのです。
過去の出来事を変えることはできません。
しかし、過去の出来事の意味づけを変えることは可能です。
これが、「過去を変えることができる」という意味です。
「過去の汚点を消すことはできない。私は対人恐怖症だったことを一生、
秘密にしていかねばならない。この事実を変えることはできない。」
と、私は思っていたわけです。
しかし、私にとって、過去の汚点は消えてしまいました。
一生抱えていかねばならない秘密も消えてしまったのです。
I am happy. の生き方が自分のものになったとき、過去のすべての出来事
が、今の幸せにつながる“ありがたい出来事”に変わるのです。
まるで、オセロゲームのようです。
自分の色が白だとします。
どんなにたくさん黒が並んでいても、最後に自分が白を打ったときに、す
べての黒のコマが白に変わるのです。
その一発大逆転を起こしてくれるのが、“I am happy.”という白いコマな
のです。
実は、斎藤一人さんも、「過去を変えることができる」というお話を、「変
な人が書いた 心が千分の一だけ軽くなる話」という本の中で語られてい
ます。
(今日のおすすめ本 参照)
さて、歳月が流れて1999年。
私は、心理コンサルティングのオフィスを開設し、目標の達成を目指す人
に対して、心理手法を使ったサポートをする仕事を始めました。
その時作ったパンフレットの私のプロフィール。
最初の言葉は何だと思いますか?
「元対人恐怖症」
この言葉から、私のプロフィールが始まっていたのです。
by野口