私は、大学2年生の秋ごろだったと思いますが、森田療法を知りました。
そのきっかけになったのは、「森田式生活術」という本です。
森田療法にはいくつかの原則がありますが、その中でも2大原則と言われ
ているのが次の2つです。
(1)あるがままに生きる
(2)目的本位で生きる
まず、「あるがままに生きる」についてお話します。
不安や恐れや劣等感などの感情は、消そうとしても簡単に消えるものでは
ありません。
むしろ、消そうと執着すればするほど、その感情は大きくなっていきます。
私の場合も、人と接する時に、「緊張すまい!」とか「リラックスしよう!」
と思えば思うほど緊張していました。
それでも私は、「緊張しない自分」「対人関係でリラックスしている自分」に
なろうと執着していたのです。
そして、そうなれない自分を自己嫌悪し、苦しんでいました。
森田療法では、「感情はあるがままにしておきなさい」と言います。
緊張しているなら緊張しているままに。
不安であるなら、不安なままに。
また、「緊張したくない!」と焦る気持ちが湧いてきたら、その焦る気持ち
も、あるがままにしておきます。
不安を消したいという気持ちが起きたら、その気落ちもあるがままにして
おきます。
とにかく感情は、そのままにしておくのです。
では、意識をどこに向けるのか?
自分の目的を明確にし、その目的をまっとうする行動に意識を集中するの
です。
これが「目的本位で生きる」です。
例えば、赤面恐怖症の人の場合で説明します。
会議で、あることについて発表しなければならないとします。
自分の出番(=発表する時間)が近づいてくると、緊張感が高まります。
「赤面してしまうのではないか?」という不安が生じます。
ここで、緊張感を解消しようとすると、よけい緊張します。
不安を取り除こうとすると、よけい不安に支配されます。
感情はあるがままに置いておいて、緊張したまま、不安なまま発表するの
です。
「参加者に大切なことを伝える」という目的のために、「発表する」という
行動を取るのです。
これが「目的本位」です。
目的に向けて、なすべきことをするのです。
この時、「うまく話せたか?」「完璧に話せたか?」というプロセスに意識
を向けるのではなく、「発表する」という行動を通して、「大事なことを
伝える」という目的をまっとうしたことに意識を向けるのです。
これをやっていると、「感情に振り回されずに、目的に沿った行動をする」
という生き方が身につきます。
強い生き方です。
私の場合、大学で友人と出くわした時に、「緊張しないように」ということ
に意識をフォーカスするのではなく、次の2つの目的に意識をフォーカス
しました。
「友人のことを知る」
「自分のことを知ってもらう」
そして、そのためになすべきことは、まず「見かけたらこっちから挨拶す
る」そして「その後で話す」ということでした。
それをやり続けていった結果、友達が増えていったのです。
人に接する時の恐怖心はありましたが、人と接することが増え、結果とし
て友人がかなり増えました。
恐怖心があっても、目的に向けてなすべき行動をすれば、友達は増えるの
です。
4年以上も対人恐怖症で苦しんでいた私でした。
友達と充分に接することができずに、孤独感と自己嫌悪で苦しみました。
そして、私の苦しみの原因だったのは、「緊張」や「顔のひきつり」では
なく、「それを理由に友達と話さない」という行動だったのです!
その行動が、孤独な現実を作っていたのでした。
森田療法のおかげで、私は対人恐怖症から抜け出すことができたのです。
徐々に友達が増え、大学生活が楽しくなっていきました。
大学3年生になるころの私は、対人緊張はするけど、対人恐怖症ではなく
なっていました。
by野口